漫画家ちばてつや氏が宮中のお茶会に
招かれた時の様子を次のように語っている。
「いまから5年前、私は文化功労者に選ばれ、
皇居でのお茶会に招いていただきました。
他の出席者の方とテーブルに座っていると、
陛下とお2人でいらっしゃった皇后さまが
隣におすわりになって、おもむろに、
『思い~こんだ~ら試練の道を~♪』
なんと、私の耳元で囁(ささや)くように『巨人の星』の テーマソングを口ずさんでくださったのです。
私が描いた『あしたのジョー』と、
川崎のぼるさんの『巨人の星』はどちらも
梶原一騎さんの原作ですから、
その場を盛り上げようとしてくださったんでしょう。
突然のことにビックリしましたが、
すぐにテーブルに座っていたみんなが笑顔になりましたよ。
私がすっかり感動していると、皇后さまが続けて、
『ウチの皇太子は子どものとき、『少年マガジン』を読んでいましたし、
テレビアニメのテーマソングも大好きだったのですよ』
…ただ、『巨人の星』は私の作品ではありません。
隣にいらした陛下が気が付かれたのか、
そーっと『それは「巨人の星」の歌だよ』と。
すると皇后さまは、
『それはわかっているんですけど、
皇太子は『あしたのジョー』も『巨人の星』も、
どちらも夢中になって読んでいたんです』
私は嬉しくなってしまって、 『御所の中にも、漫画雑誌やアニメがあるんですか?』とお尋ねすると、
『宮内庁の職員が買ってきてくれるのです』と。
皇太子さまや秋篠宮さまは、東宮(とうぐう)御所にある 階段にならんで座って読んでいたそうです。
…何より、皇室の皆さんに親しみが感じられた、
いまも忘れられない嬉しい思い出ですね」
皇后陛下が宮中の奥深くで「巨人の星」
のテーマソングを口ずさまれ、それがちば氏の作品でないことに 気付かれた陛下が、微声にて「それは『巨人の星』の歌だよ」
と指摘なさったというやり取り。 些(いささ)かシュールだ。