• 高森明勅

皇位の安定継承、政府は断念?



皇位の安定継承、政府は断念?

読売新聞(7月27日付)一面トップに「皇位継承順位 維持へ」という記事。情報源は「政府関係者」。恐らく杉田和博内閣官房副長官だろう。


「政府関係者によると、皇位の安定継承の議論は、①まず3人の男系男子が現在の順位に従って皇位継承することを明確にする②そのうえで具体的な安定継承策や皇族数の減少対策を検討する―という2段階で進める考えだ」と。


しかし、これは奇妙。①は、元々は「側室制度」と「非嫡出の継承資格」を組み込んだ明治の皇室典範の旧ルールを、それらが無くなってもそのまま踏襲した「順位」。実はその“チグハグさ”こそが、皇位継承の行方を不透明している最大の要因。だから、これを前提にすれば、②の議論の幅は極端に狭(せば)まる。と言うより、“安定”継承策を探るのは事実上、不可能になってしまう。前もって②を無意味化するに等しい。


つまり皇位の「安定継承」の断念。政府は一体、何を考えているのか。「政府がこうした段取りで議論しようとするのは、野党が女系天皇や女性天皇の実現を主張しているためだ」という。これはアベコベではないか。野党がそうした主張をしているなら、それに一定の配慮を示した形で議論をスタートさせないと、入口から躓(つまず)いてしまう。にも拘らず、予め野党の言い分を“切り捨てる”所から開始しようとしている。まさに強行突破。これでは「冷静な」議論はとても望めない。と言うより、政府側がこのような「段取り」を考えている事自体、既に“冷静さ”を失っている。


改めて言うまでもなく、天皇という存在は「政府の天皇」でも「与党の天皇」でもない。政府がやろうとしている事は、「国民“統合”の象徴」たる天皇の地位に相応(ふさわ)しい議論の進め方ではない。「政府が今の皇位継承順位を変えないことにしたのは、皇位の安定継承策を静かな環境で検討する狙いがある」とか。だが、これ又“狙い”と“手段”がひっくり返っている。それが狙いなら、国民の多数が賛成している女性天皇、女系天皇という選択肢(読売新聞が5月に実施した全国世論調査でも女性天皇に79%、女系天皇に62%が賛成)を、頭から排除するという乱暴極まる姿勢は、逆の効果しか生まないだろう。


そもそも、今の皇室には将来の天皇たるべき「皇太子」がおられない。秋篠宮殿下は畏(おそ)れ多いが、今の皇室の構成上の“巡り合わせ”で皇位継承順位が1位に当たる(論理的には変動可能な)、「皇嗣(こうし)」という相対的で不安定なお立場に過ぎない(論理上、天皇陛下に男子がお1方お生まれなら順位は2位に、お2方お生まれなら3位に…という具合)。しかも、将来の天皇陛下のご譲位の時点では、既にご高齢でいらっしゃる事が今から予想できる(天皇陛下は昭和35年、秋篠宮殿下は同40年のお生まれ)。そうしたご年齢では、客観的にご即位に無理があると考えられるだけでなく、ご自身も辞退されるご意向である事が洩(も)れ伝わってる(令和になっても、皇室祭祀にこれまで通り“一参列者”として臨まれている事実は、示唆的)。


従って、①は到底、前提とはなし得ない。同記事には「政府高官」の次のような発言も収める。「(国会で女性天皇・女系天皇をめぐる議論が本格化すれば)愛子さまと悠仁さまのどちらに即位していただきたいかという論争になりかねず、国論を二分する可能性もある」と。“政府高官”なら菅官房長官の発言だろう。しかし、随分お粗末な言い分だ。野党も、敬宮(としのみや)殿下か悠仁親王殿下か、といった不敬かつ属人主義的な議論をするつもりは、さらさらないはずだ。


そうではなく、「側室」「非嫡出継承」の否認(!)という困難で前例の無い条件下にあって、皇位の安定的な継承を図る為に、どのような「継承のルール」を作るべきか―が問われているのだ。どなたが皇位を継承されるかは、その“ルール”によって自ずと決まって来る(つまり②→①)。議論の本末を転倒させてはならない。そのルール作りは、「国民統合の象徴」たる天皇の地位の継承の仕方を決める重大事。だから、政府が任意に選んだ「有識者会議」などに、軽々しく委ねるべきでないのは言う迄もない(これまでの迷走ぶりを見よ!)。


ご譲位を巡る法整備の時と同じように、国会の全党・全会派が一堂に会して、議事録を公開しながら虚心坦懐(きょしんたんかい)に議論を尽くすべきだ。「静かな環境」で「冷静な検討」を行う為には、こうした“丁寧な”手順が欠かせない。その際、政府・与党は、野党の主張や民意に謙虚に耳を傾けるべき事は、当たり前だ。


勿論、野党もこの尊厳なテーマを、間違っても“政争の具”にするような事があってはならない。国会全体が一致協力して、皇室の伝統と民意を踏まえ、可及的速やかに妥当かつ実現可能な解決策を見つけ出さねばならない。

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