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幸せな生涯

  • 執筆者の写真: 高森明勅
    高森明勅
  • 2018年7月28日
  • 読了時間: 2分

妻の母親が亡くなった。

享年86歳。

岳父の10年祭から僅か20日余り後の逝去だった。

妻が長女で、下に長男と次女という3人の子供。

孫は9人。

神式の葬儀は知り合いと孫達だけで奉仕した。

本当に心の籠った懇篤な祭典になった。

参列者も多く詰めかけて下さった。

生涯、極めて質素な暮らしを貫いた。

80歳を越えても畑に出て農業を続けていた。

実は経済的にはそれなりに恵まれていたのに、 決して安楽、贅沢な生活をしようとしなかったのだと、 比較的最近に知って驚いた。

明朗快活、頭脳明敏。

優しい人柄ながら芯の強いものを持っていた。

亡くなる数日前に、 私の長女が祖母の似顔絵を描いて見せた時には、 鼻に管を通されていても、満面の笑みを見せた。

至誠一徹の岳父の妻として、 言葉には尽くせない辛苦を経て来たはず。

なのに、いつも明るさを失わなかった。

晩年、物忘れが少し目立つようになると (と言っても今の私くらいか)、 性格がますます清らかになったような気がする。

時折、老いて人が変わったように我が儘になったり、 意地悪になったりする例を見かける。

ところが義母の場合は、世俗の煩いが薄らいで、 内面の清浄無垢さが、そのまま発露したかのようだった。

身近な1人は弔いの言葉の中で、

「心のどこかで少女の気持ちをずっと持ち続けた」

と述べていた。

まことに幸せな生涯だったと羨ましくなる。

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