• 高森明勅

平成大嘗祭の「斎田点定」を巡るエピソード

天皇の祭祀で最も重大なのが一代に一度の大嘗祭。 その大嘗祭で最も大切なのが悠紀(ゆき)・主基(すき) 両地方の特別に選ばれた田(斎田、さいでん)から献上される新穀だ。


ところが安倍内閣は、一定の地域で既に田植えが終わっている、 5月1日を新しい天皇の即位日と決めてしてしまった。 明らかに失態と言わざるを得ない。 その事は繰り返し指摘しておく。


但し、ここで紹介したいのは、 最も近い前例である平成の大嘗祭での 「斎田点定の儀」を巡る苦心談だ。 実際に平成の大嘗祭に奉仕された2人の証言から。


「まず悠紀の地方、主基の地方をどのように定めるか… 新潟、長野、静岡の線で、国内を二分して、 その3県を含む東側を悠紀の地方、 それより西側を主基の地方と定めた…

つぎに、 それぞれより一都道府県を選ぶ方法であるが、 これを前例また旧来の亀卜(きぼく)によるか、 それ以外の方法によるべきかについても十分に検討し、考慮した。 現在各地神社等で鹿卜を用いる例はあるが、 亀卜の例が…皆無であり、それより亀甲の入手を如何にするか、 また国際条約で既にタイマイの甲等の輸入は禁止、 国内でも都道府県条例等で種類により捕獲禁止の地もあり、 これらより他の方法によるべきかとも考えたが、 諸記録により亀卜に用うる亀甲は、鼈甲(べっこう)等 脂性の多いものは灼(や)くことに適さず、 国産のあおうみがめ、それも剥して年月を経たものが適当とみたが、 それは法に抵触せず、また先の大礼時の謹製者の後継人がおり、 その亀甲を亀卜用に細工する技術を伝承していた上、 適当の亀甲を入手できるとのことで、前回同様に準備可能と解り、 さらに関連問題のないことを確かめた上で、 古例、前例により亀卜によることとした。

また、それを灼くための波々加木(ははかぎ、上溝桜〔うわみずざくら〕)

も無事入手出来ることとなった」 (鎌田純一『平成大礼要話』) その更に裏話。


「私はやみくもに古い形にこばわるつもりもないのですが、 やっぱり気持ちがなくなると形にあらわれると思うのです。 …(形はどうでもよいとなったら)実は、神様に対する気持ちが 変わってしまっているんです。 儀式の形を守るという点では、 こんなこともありました。 即位の大礼に先立ち、 大嘗祭に奉納する米と粟(あわ)を作る 斎田の場所を決めなくてはならないのですが、 それは『亀卜』といって亀の甲を火にくべ、 その割れ方で決めます。

そのためには体長1メール30センチ以上の アオウミガメの甲と波波加木(ウワミズザクラ) が必要なのですが、これが実に大変だった。 このアオウミガメはワシントン条約の規制により 輸入することができないのです。

国内で八方手を尽くしても見つからず、 ようやく小笠原の水産試験場に、 たまたま自然死した亀が二匹発見された。


またウワミズザクラは、 かつては御料林にあったのですが、 戦後、林野庁の管轄となってからは、 どこにあるかわからなくなってしまっていた。 そこで奈良の吉野に見当をつけて探していると、 奈良の林野関係者で、随分前に『亀卜』で ウワミズザクラが必要であることを知り、 誰に頼まれたわけでもなく、山中に分け入り、 桜の場所を調べておいたという人がいたのです。 そうした思いと努力に支えられて、 即位の大礼が成り立っていることを痛感しました。 これもウワミズザクラでなくてもいいだろう、 亀の甲でなくてもいいという考え方も可能です。 しかし、それに伴って、儀式に対する思い、 真剣さも薄れていかざるを得ない。


さらに突き詰めていくと、何もしなくても同じだ、 ということになるのではないでしょうか」 (三木〔そうぎ〕善明「儀礼担当者が語る『平成の大礼』の舞台裏」)


ー「先〔昭和〕の大礼時の謹製者の後継人がおり、 その亀甲を亀卜用に細工する技術を伝承していた」と。


しかし、「各地神社等で…亀卜の例が皆無」というのが現実。


そうした中で、よくぞそのような方がいらしたものだ。


又、「奈良の林野関係者で…誰に頼まれたわけでもなく、 山中に分け入り、桜の場所を調べておいたという人いた」と。 何と清々(すがすが)しい「公(おおやけ)」への志か。 このような方々がおられ、 このような努力があって、 平成の「大礼」は皇室の伝統に則り、 厳粛かつ盛大に執り行う事ができた。 安倍首相をはじめ今の内閣の関係者は、 こうした事実をどう受け止めるのか。


なお、『月刊Hanada』の編集長に依頼された原稿は、 来月号(1月下旬発売)に先送りすると本人から電話が入った。


それでは、ご譲位の日取りの決定をうけて執筆した 拙文発表のタイミングとしては、遅過ぎる。


締め切りに遅れた訳でもないのに、 よほど私の原稿のレベルが低かったのだろうか。

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