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執筆者の写真高森明勅

宮内庁長官の発言

私はこれまで、原則として、宮内庁長官の発言は 極力、尊重して来たつもりだ。

少なくとも、無責任な宮内庁批判とは一線を画して来た。


実際に、皇室の事柄を巡り、 宮内庁と首相官邸が対立した場合、

概ね宮内庁側に理があった。


しかし、この度の長官の発言はどうか。

率直に言って、安倍官邸に歩み寄り過ぎではないか。 新しい天皇のご即位が再来年の5月1日でも、 その年の11月の大嘗祭に間に合う、と。

理由は“前例があるから”。


「山本長官は(11月)24日の会見で、 過去に『斎田(さいでん)点定の儀』 (大嘗祭に新穀を献上する悠紀〔ゆき〕・主基〔すき〕 両地方の特別の田んぼ〔斎田〕を占いで選ぶ儀式―高森) が5月に行われた例があることを理由に挙げ、 5月即位の場合でも同じ年の11月に大嘗祭を行うことに 『特段の問題はない』との見解を示した」 (産経新聞11月25日付)と。


これはタイミング的にも、

私の指摘(11月23日のブログ 「5月1日にご即位?」)への“釈明”のような格好。


天皇の一代に一度限りの大嘗祭に「特段の問題」が生じたら、 それこそ“切腹もの”だろう。 過去の実状の一端は、

拙著『天皇と民の大嘗祭』(平成2年) でも触れておいた。


更に“古儀”において、それを特に「奇異」(倉林正次氏) と見る必要がない事も、述べた。


大嘗祭は、単なる農耕儀礼ではなく、 何よりも「皇位継承儀礼」である点こそが、 その本質だからだ(第4章)。


しかし、農耕儀礼としても、 より丁重かつ厳粛に行おうと努めるのは当然。 だから、過去の検証と吟味を経て、 近代の規範が定まった大正天皇の大嘗祭以降、 常に田植えの時期より“前”に、悠紀・主基の斎田を選んで来た (大正天皇、悠紀ー愛知県、主基ー香川県。 昭和天皇、悠紀ー滋賀県、主基ー福岡県。 今上天皇、悠紀ー秋田県、主基ー大分県)。


もし5月1日に即位された場合、 田植えが4月に行われる諸地方は、 予めその候補から除外されるのか。


それとも、田植えが済んでいても構わずに、選ぶのか。


「どちらも、国民統合の象徴たる天皇の 新しい時代の幕開けを飾る祭儀に相応しくない」(前出ブログ) ーというのが私の指摘だった。


「特段の問題」があるか否か、ではない。


より「相応しい」形かどうか。

それが問われている。


だから、前例があればそれで良い、 という安易な話ではない。 天皇陛下はこれまで長年にわたり、 まさに「全身全霊」で、国民の為に「象徴天皇」の あるべき姿を体現し続けて下さった。 国民が、新しい天皇の大嘗祭を最も望ましい形とすべく、 最大限の努力をするのが当たり前ではないか。


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