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執筆者の写真高森明勅

『天皇史年表』早くも在庫切れ?


天皇史年表

『天皇史年表』早くも在庫切れ?

米田雄介氏監修・井筒清次氏編著『天皇史年表』(河出書房新社)。6月下旬の刊行。しかし、地元の書店に取り寄せを依頼したら、版元には既に在庫切れという。


他の書店でも、問屋でも在庫が無くなっている、と。何しろ1,582ページの大冊。重いので、なるべく我が家から近い書店で手に入れようと考えていた。が、のんびり構えていたら購入出来なくなりそうだ。ネットで注文して自宅に送って貰うと、リアルな書店を蔑ろにする事になる(私が立ち読みする場所が無くなりかねない)。なので、なるべく避けたい。仕方がないから池袋のジュンク堂書店に連絡をすると、ちゃんとあった。


それにしても、これだけの大冊で、9月末迄の期間限定割引価格が2万7千円プラス税(10月以降は3万2千円プラス税)という、一般的な感覚では必ずしも安くない本が、早々と在庫切れになるとは思わなかった。でも考えてみると、125代の天皇のご事績を1冊の本に詳しく年表風にまとめ、しかも親切に記事の出典史料まで明記してある(ルビも丁寧に振ってあるし、行き届いた注記も添えてある)。これまで、こんな本は無かった。


これからも、このような書籍がたやすく現れるとは考えにくい。だから図書館や研究室、新聞社などがまず予約を入れたはずだ(私はウッカリしていたが)。皇室に関心のある読書家も欲しくなるだろう。内容の充実ぶりと編著者の苦労を考えると、実は安過ぎる価格設定だ。入手出来て一先ず良かった。


筒井氏の編集後記にこんな一節が。

「編集者人生も長くないし、類書もないことから『天皇史年表』に挑んだのである。平成16年に『日本宗教史年表』を上梓(じょうし)し、すぐにとりかかった。まず『国史大辞典』(全15巻―引用者)すべてに目を通し、天皇に関する事項をカード化し、これと併行して天皇に関する叢書・全集・単行本から事項をひろい集めた。ひと段落したところで、これらを年月日順にならびかえ、『日本史年表』数種と照合して書き並べ、最後に『六国史』『天皇実録』『大日本史料』等で増補・確認していった。気がつけば、ページ数は予定の二倍となり、5、6年で終わるつもりが、天皇退位もあり二十年近くもかかってしまった」と。


想像を絶するような根気のいる作業だったに違いない。最後の記事は、平成31年4 月30日の上皇陛下のご譲位で、翌日の今上陛下のご即位も付記する。資料として「退位礼正殿の儀」での“おことば”を収録している。最も基礎となった参考文献は以下の通り。


宮内庁編『天皇皇族実録』全135巻(ゆまに書房)

・宮内省臨時帝室編修局編『明治天皇紀』全13巻(吉川弘文館)

・宮内省編『大正天皇実録』(宮内庁宮内公文書館蔵)

・宮内庁編『昭和天皇実録』全19冊(東京書籍)

・清水正健編『皇族世表・皇族考証』全7冊(吉川弘文館)。


勿論、この他にも多数。中身はまだ殆ど目を通していない。だが、とにかく編著者の執念に敬意を表したい。よくぞこれだけの難事業を、たった1人で(勿論、監修者もいるが)完成させたものだ。


但し、この種の出版物に完璧は期しがたい。たまたま開いたページに誤植を見付けた。1,515ページ上段の昭和50年11月21日の記事の3行目に「“昭”仁上皇」とあるのは勿論「明仁上皇」が正しい。1,564ページ下段に「三笠宮憲仁親王」とあるのも、“三笠宮”の称号を受け継ぐ前に亡くなられたので、厳密には訂正が必要だろう。或いは、1,465ページに憲法の天皇関連条文が掲げてあって、せっかく第1章だけでなく88条も収めているのなら、99条も外すべきではなかろう。


更に、系図の最後に「今上」が抜けているのは感心しない。目次や系図、見出しで、昭和天皇の次を「天皇(明仁上皇)」と記しているのも気になる。取り敢えず気付いたこれらの点は、一応、担当の編集者に伝えた。


しかし、こんな些細な事で、この大著の価値が僅かでも損なわれるはずがないのは、言う迄もない。恐らく今年は、御代替わりに便乗して様々な関連本が出るだろう。しかし本書は、そうした便乗本とは明らかに一線を画する。まさに渾身の力作だ。

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