高森明勅

2019年2月10日1 分

江戸時代の旧説をそのまま踏襲する歴史書

明治大学名誉教授で日本古代史分野の

代表的な学者である吉村武彦氏。

その近著(『大化改新を考える』平成30年)に、

孝徳天皇(36代)の即位(645年)に当たり、

大嘗祭が行われたかのような記述がある(10ページ)。

これには驚いた。

江戸時代の国学者、河村秀根(ひでね)らの

『書紀集解(しっかい)』(1785年に成立)

の旧説を、そのまま無批判に踏襲しているからだ。

大嘗祭の成立は691年。

持統天皇(41代)の即位に伴って行われた

(拙著『天皇と民の大嘗祭』平成2年など参照)。

それより半世紀近くも前の孝徳天皇の時代に、

大嘗祭が行われるなんてあり得ない。

別に、江戸時代の説“だから”踏襲してはならないと、

単純に考えている訳ではない。

本居宣長のカミ(神)の定義をはじめ、

長く継承されるべき優れた見解も、勿論ある。

だが学問上、とっくに克服されたはずの旧説を、

検証もせずに踏襲しているのが残念なだけだ。

恐らく、直接には日本古典文学大系、

又は新編日本古典文学全集に収める日本書紀の注解

(前者は昭和40年、後者は平成10年に刊行)あたりを、

安易に採用してしまったのだろう。

私も用心しなければ。

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