高森明勅

2018年3月21日2 分

天皇陛下の沖縄行幸

天皇陛下は来る3月27日から29日まで沖縄をご訪問になる。「天皇」としてのお出ましは、恐らくこれが最後になるだろう。
 

 
陛下はこれまで10回に亘って沖縄を訪れておられる。
 
皇太子時代に5回、ご即位後に5回だ。
 

最初は沖縄の祖国復帰3年後の昭和50年。
 

 
沖縄国際海洋博覧会の開会式(政府出展施設の合同開館式)にご臨席の為だった(7月17日から19日まで)。ご慰霊の為、南部戦跡にお入りになり、「ひめゆりの塔事件」が起きている。
 

 
左翼過激派による突然の火炎ビンの投擲(とうてき)にも動じられず、案内役だった元ひめゆり部隊の源(みなもと)ゆき子さんを真っ先に気遣われた。

その夜には、予定になかった談話を沖縄の人々に向けてご発表になった。

「私たちは沖縄の苦難の歴史を思い、沖縄戦における県民の傷跡を深く省み、平和への願いを未来につなぎ、ともどもに力をあわせて努力していきたいと思います。
 

 
払われた多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものではなく、人々が長い年月をかけて、これを記憶し、1人ひとり、深い内省の中にあって、この地に心を寄せていくことをおいて考えられません。
 

 
県民の皆さんには、過去の戦争体験を、人類普遍の平和希求の願いに昇華させ、これからの沖縄を築きあげることに力を合わせていかれるよう心から期待しています」と。

又、開会式の前夜に開かれた「お茶会」に招かれた専門家は、次のような印象を述べている。

「よばれたのは、沖縄出身の作家の大城立裕、琉球大学教授の比嘉政夫とわたし(国立民族学博物館長、梅棹忠夫)の3名であった。わたしたちは皇太子殿下が琉球の歴史と文化について、
 
じつにお詳しいのに驚嘆してしまった」(梅棹忠夫『行為と妄想わたしの履歴書』)と。
 

 
同年8月26日の記者会見では「気持ちとしては、また(沖縄に)行ってみたい」とおっしゃっておられる。
 

 
これは異例のご発言だった。

陛下と沖縄の直接の“出会い”はここから始まった。

その後、陛下は「払われた多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものではなく、人々が長い年月をかけて、これを記憶し、1人ひとり、深い内省の中にあって、この地に心を寄せていくことをおいて考えられません」
 

 
とのお言葉を、自ら誠実に実践してこられた。

今回の沖縄行幸(ぎょうこう)は、その1つの区切りとなるものだろう。

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