高森明勅

2021年7月3日2 分

天皇は日本においてデモクラシーを支える最後の砦という指摘

社会学者で、アカデミズム以外の場でも活発な発信を続けている大澤真幸氏。

「天皇制」とデモクラシーの関係について興味深い発言をしておられる。

「我が国において天皇制は、結果的に、しかも意図せざるかたちで、デモクラシーを支える最後の砦のようなものになっています。

今、世界を見渡すと、デモクラシーは危機の中にある。

しかし、日本は、天皇制があるおかげで、目下、世界の多くの国々を苦しめている共通のデモクラシーの危機から免れているのです。…

デモクラシーにもとづく集合的な意思決定をしたとしても、その結論に全員が賛成しているわけではありません。

…にもかかわらず、全員がその決定に従うのがデモクラシーです。

どうして、私が反対していることが決まったのに、私はそれに従うのか。…

それは、デモクラシーには、デモクラシー以前の合意というものがあるからです。

それは、私と意見が異なる人たちも、私を含むみんなのことを考えて、そのような意見を言っている、という前提です。

だから、私は、自分の意見と異なることでも、デモクラティックに決定されたことに従うわけです。…

現在、問題なのは、多くの国の内部で、『デモクラシー以前の合意』が成り立たなくなっている

ということです。

たとえば、アメリカ人の中に、トランプ大統領のことを『われわれの』大統領だと受け入れる気がしない人がたくさんいる。…

アメリカ社会に、デモクラシーそのものを可能にするための基本的な合意が失われつつある。

しかし、日本はそうならずにすんでいます。

その原因のひとつ、しかも最大の原因は天皇制にある、と僕は見ています。

天皇が存在し、それを承認しているということが、『われわれ(日本人)』の間に最小限の合意がある、ということの印になっている。…

天皇を皆が承認しているということが、『われわれ』の間に、デモクラシーを危機に陥れるほどの分裂は存在していない、ということの保証になっているわけです」(『むずかしい天皇制』)。

これまで、ややもすると「天皇制」とデモクラシーは対立的にのみ捉えられる傾向が強かった。

しかし、デモクラシーを成り立たせる為には、社会のメンバーに政治的な意見の違いはあっても、お互いの「最小限」の信頼感、仲間(=「われわれ」)意識、つまり「デモクラシー以前の合意」が必要不可欠だ。

そこが崩れると、デモクラシーは健全に機能しなくなり、危機に陥る。

その点、日本の場合は、天皇と皇室の存在(「天皇制」)こそが、デモクラシーの基底を支える信頼感、「われわれ」意識を裏付ける「最大の原因」になっている、という見方だ。

同氏のトータルな意見はともかく、少なくともこの点についての指摘には、傾聴すべきものがあろう。

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